能力の高い人ほど「ここ一番」で失敗しやすい:その原因と対策

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いまテレビで、体操世界選手権2014男子総合決勝を見ながら書いている。内村選手かっこいいな〜〜あの技の正確さと美しさ!!!思わず見とれてしまう鍛えられた筋肉...

 

超一流のアスリートやアーティストが、「ここ一番」という時に実力を発揮できないのを、あなたも目撃したことがあるだろう。電気が走ったみたいにガク!ってなったり頭が真っ白になったりするあの感じは、自分でも経験がある人も少なくないだろう。そうなったら、プロのバスケットボール選手でも簡単なフリースローを外したりするし、一般人なら重要なプレゼンやクラスのみんなの前での自己紹介でも汗だくになったりすることもあるのである。どんなに実力のある人でも、プレッシャーの本では萎縮するのだ。

経験や、優れた才能をうまくコントロールするスキルがあれば、そんな状況でも生花を出せそうに思える。今の地位にたどり着くまでに積み重ねてきた努力も。起死回生の一発につながりそうなものである。ところが実際には、そうした卓越した能力こそが、大事な局面での失敗をもたらしているのだ。

しかも、不思議なパラドックスであるが、トップクラスの人ほど萎縮しやすいようなのだ。

 

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プレッシャーを感じてる時、脳で何が起こっているのか

まず知っておきたいのは、プレッシャーを感じている際に、頭の中で何が起こっているか、である。

 

「ここは絶対に決めなきゃ」というストレスがかかると、自意識過剰になりがち。心配や不安や恐怖心から、脳は自己批判を始める。それが行き過ぎると、集中が破壊の力に変わるのだ。これにより、何度も練習して自然に身につけた動きを妨げてしまうのだ。

 

こうこうした思考は、脳のワーキングメモリをいっぱいにし、容量の限られている頭の中を埋め尽くしてしまう。頭のワーキングメモリは、私たちが考えて動く上で基本的な役割を果たすもの。複雑な短期記憶システムで、論理的思考や計算に使われる。

 

(脳のワーキングメモリの)活動中は、目前のタスクに直接関係する限られた量の情報をキープする一方で、周囲からの刺激や無関係な思いつきによって気が散るのを防ぎます。タスクへの集中を維持するワーキングメモリのはたらきが攪乱されると、パフォーマンスに悪影響が出ることがあります。

 

脳のワーキングメモリも、コンピューターのメモリと同様、限りあるリソースである。「うまくやらなきゃ」というプレッシャーのかかる場面で、不安や心配のつけいる隙を与えてしまうと、メンタルの大事なリソースをそちらに取られてしまう。本来ならもっと良い使い方があるはずのリソースを消耗し、自分の一挙手一投足について考え込んでしまうのだ。

 

プレッシャーがあると、強みを活かせなくなる

引用したのは、シカゴ大学の心理学者シアン・バイロック氏の、プレッシャーによる萎縮に関する研究の一節である。この研究では、能力の高い優秀な人ほど、プレッシャーによる萎縮を感じやすいとわかった。そうした人は高度なパフォーマンスが当たり前である一方で、「高い認識能力を備えているために(中略)考えすぎ、分析してしまいがち」なのである。

 

この研究では、被験者にワーキングメモリの処理能力をはかるテストを受けてもらい、成績によって2つのグループに分けた。その後、被験者には2種類の条件下で、数学の問題(易しいものと難しいものと両方)を解いてもらいました。1つ目の条件は「プレッシャーの軽い時」で、被験者には練習だと説明して問題を解いてもらった。もう1つの条件は「プレッシャーのきつい時」。実社会での外的要因によるプレッシャーを再現するため、金銭的報酬を約束し、共同作業や第三者の評価というプレッシャーをかけた。

ワーキングメモリの処理能力の高い(HWM)被験者群は、処理能力の低い(LWM)被験者群に比べて注意力がすぐれているはずなのに、プレッシャーのきつい条件下では、その能力が十分に発揮されなかった。それどころか、論文のまとめによれば「プレッシャーの軽い条件下で難しい問題を解く際には、HWMグループはLWMグループよりも優位であったが、(プレッシャーがきつい場合は)その差は完全になくなった」そう。

普通ならばすぐれたパフォーマンスをあげられる人が、その強みを失ってしまったのだ。

 

プレッシャーにどう対処するか

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おかしな話だが、メンタルの手綱をゆるめ、あえてコントロールを手放すことこそ、コントロールを取り戻すのに有効なのだそうだ。バイロック氏は「何千回も繰り返してきた活動なら、『自動操縦モード』のほうが良いのです」と説明している

不安感でメンタルの容量がいっぱいいっぱいになってしまいそうなら、以下の3つの方法を試してみよう。普段の流れを取り戻し、ベストの方法を思い出して実行する役に立つはずだ。

 

  1. 一に練習、二に練習

これまで数えきれないほどの時間を費やして、才能を伸ばしてきたはず。でも、ストレスのきつい時にもその才能を発揮するための練習には、どれくらい時間を使ったか?

バイロック氏によれば「軽いストレスをかけて練習するだけでも、いざ深刻なストレスがかかった時に萎縮するのを妨げる」のだそう。弁護士が法廷での弁論を同僚の前で練習するのも、受験対策として時間制限をかけて予想問題を解くのも、ミュージシャンがステージ上でリハーサルをするのも、全部そのためである。「練習気分」を脱するための練習なのだ。

 

 2.  不安を書き出す

バイロック氏はまた、パフォーマンスに関する不安を書き出すよう勧めている。これにはワーキングメモリを空っぽにする効果があり、考えすぎで混乱するのを防いでくれるのだ。例えば、不安に苛まれている学生を対象に、テストの前に不安な点を書き出させたところ、成績がB-からB+へと2段階アップしたのだとか。

 

 3. 注意をそらす

注意をそらしてみるのも、考えすぎを防ぐ役に立つ。ゲン担ぎに決まったソックスをはくとか、舞台に上がる前に耳をこするといった、迷信じみた「おまじないの類も、プレッシャーのきついタスクの前に意識を別のことに向ける効果がある。バイロック氏によると、歌を歌ったり数字を逆から数えたりするのも、内なる自己批判の声に溺れそうになった時には、気持ちを楽にする効果があるそう(ただし歌手の方や、プレッシャーのかかる状況で数学の問題を解かなくてはならない時は、別の方法で気を紛らわせてくださいね)。

およそどんな分野であれ、パフォーマンスの大部分を占めるのはメンタルの駆け引きだ。これを頭に置いて、駆け引きのコツを理解しておけば、ほかに勝る大きな強みになる。

「きついプレッシャーが刺激になってパフォーマンスが向上する」という思い込みは根深くて、うっかりするとその罠にはまってしまう。でも、バイロック氏の研究などから証明されているように、これは必ずしも事実ではない。努力や我慢も、すぐれた技術を獲得するために当然必要な要素ではありますが、それだけでは不十分である。目前のタスクに集中しすぎて、苦労して身につけた自信を失いそうになった時に、「今は自分を信じて、流れに身を任せた方が良い」と判断できる力も身につけておこう。

 

 

プレッシャーに強くなる技術

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